過去に綴った本であっても、それを手にする度に、あの頃の自分に戻ることができる。それは何と幸せなことだろうと、そう思える今日この頃。
想い出が詰まった作品は、時間をも超えられるのだろう。
相当に時間が経ってはいるが、それでも中身は色褪せてはいない。
2冊の拙著を、改めてご紹介する。
「チャンピオンは眠らない」(97年)
この本は、私にとって2度目の節目となった単行本である。
「勝者の法則」を経て、ずっと騎手という存在を追い続けて取材をしていたが、この本が刊行されることでひとつの区切りとなった。
第1章は、騎手田原成貴とマヤノトップガンによる97年春天皇賞の物語。当時の最強馬横山典弘サクラローレル、武豊マーベラスサンデーとの威信を賭けた死闘の裏側を徹底的に検証して探った。(これは2回に分けてJRAの優駿に掲載された)
こんなノンフィクションは、おそらくそれまでの競馬には無かったと今でも胸を張れる作品である。
あの頃、ダービー2勝ジョッキー小島太が、調整ルームなどで若手騎手らに語ってくれていたという。
「お前らなあ、鶴木に取材されて、初めて一流ジョッキーなんだぞ!」と。
これは騎手による最大の褒め言葉だったろう。人知れずの努力が報われた気がした記憶がある。
その後、調教師になった田原成貴は、皆さんご存知のようにドラッグの海に溺れて、自身の成し遂げた数々の栄光の足跡を汚してしまったが、少なくとも現役ジョッキー時代は、現代の類稀なる勝負師であったことは間違いない。その評価は今でも変わってはいない。
乗り代わりや、障害騎手の現実、おもろい奴らなど、騎手を取り巻くすべてをこの中の作品で語りきったと思う。
言わば集大成の騎手物語である。
確か終章は、小島太の引退をテーマに、グッバイ太。彼と青春の時間を共にした体験を持つ塩崎利雄が、馬券に関わる2億の借財に追われていた体験まで語ってくれたことは、実に印象的だった。
今でも一読の価値は、充分にあります。古本なら、もう500円以下でしょう。お買い得ですよ。
「チャンピオンは眠らない」を通過して、私は、ついに調教師の世界を描くことを始めた。それが、10年もの間刺激的に続いた「調教師伊藤雄二の確かな目」である。
伊藤雄二調教師とのことは、また次の機会にじっくりと。お楽しみに。
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