終わってみれば、行った行ったの決着だったが、G1マイル戦の東京コースのホームストレッチは、さすがに長く感じられて、決して前残りの単純な結末とは思えなかった。
ゴールイン後に、「そうか、前を行った2頭で決まったのか・・」と、ようやく気づいたのだった。
思えば、私の安田記念は、ダービーデイの帰り道から始まっていた。競馬場から大レース後の定例の府中三松での飲み会に向かう途中に、文春の編集者Fから「次は安田記念ですね。良いメンバーが揃うようですよ」と言われ、そう言えばと、古馬マイラー路線の出走馬を思い浮かべて、「そうか。軸は世界のモーリスだし、相手は好きなイスラボニータとロゴタイプなら面白いんだけど・・」と軽口を叩いていたのだ。
ドバイで、おそらくはR.ムーアに全力で走らされてしまっただろうリアルスティールや、前走のトライアル京王杯SCを圧勝してしまったサトノアラジンには、何となく勝負気配のベクトルの下降が感じられて気乗りがしなかったし、何よりもサトノアラジンはその前のダービー卿チャレンジTで、斤量が1Kg重かったロゴタイプに追いつけずに負けていた。ならば、この日やはりダービーを勝てなかった蛯名正義の騎乗するイスラボニータや、田辺裕信の騎乗3戦目となるロゴタイプに食指が動いたのである。
それからの1週間は、その瞬間をただただ待っている身としては長かった。ひたすら静かにじっと時間の過ぎるのを、耐えるように待っていた気がする。
最終追い切りからパドックまでの時間が、特にいつもより長く感じられてならなかった。時間には、正確に刻まれる機械的な時間と、感情や意識が織りなす時間がある。当然、このふたつの時間は、感じ取る側の都合で長くなったり短くなったりするものなのだ。
でも、やがてそのときは来る。
土曜の夜に競馬新聞を買う。私は、「研究ニュース」を選んでいるが、この新聞は以前の「競馬研究」がリニューアルされたものだ。調教欄が見やすくて、私はずっと「競馬研究」の読者だったが、何よりも「競馬研究」はある種独特な知性を発揮している編集で特化していた面があったが、「研究ニュース」になってからは、この独特な要素が極力排除されて、普通の競馬専門紙になってしまっているのが残念に思えてならない。時流に合わせようとすると、予想における予想者の思想哲学も消えてしまうのに・・・。
と、ブツブツ呟いているうちに日曜日。競馬場には行かず、午前中は、居間の水槽を覗いて今年生まれたミナミヌマエビの子供(まだ2mmほどだが髭も目玉も足もちゃんとそれらしい姿でピクピクと跳ねている)を眺めたり、外のメダカに餌をやったりして過ごした。
午後になって机の前に座り、GCを視聴しながら、安田記念の最終チェック。新たに何かを見つけるのではなく、心に決めている結論を、何とか自分に対して正当化するのだ。
10Rハンデ戦1400mの由比ガ浜特別を迎えて出走馬を眺めていると、何となく閃いて気が向いて、4頭の馬を選び出した。メイショウメイゲツ、シルヴァーグレイス、クレアドール、ショウナンライズ。様子見だからと、何とか馬連3点にしたくて導き出した結論は、武豊メイショウメイゲツから馬連3点。しかし・・・。
結果は、ショウナンライズ、シルヴァーグレイスで決まり、ロングショット。クレアドールは4着で、メイショウメイゲツは惨敗だった。アーッ・・・。でも、とりわけ思い入れて買った訳ではないので、これもまた競馬と、すぐに気を取り直して安田記念の私の結論は何も変えなかった。
私にとって、この安田記念の最大の謎は、どの馬が先手を取るのか?ということに尽きた。選んだ3頭は、力通りに走ったならどの馬も好位からスパッと差す馬だった。スパッと差し切るには、ある程度レースが流れて、それでも底力を発揮して伸びてくる必要がある。では、先導役はどの馬なのかと考えると、安田記念の12頭の出走馬の中で、これだ、この馬がペースを創る!という馬がはっきりとはしてこなかった。それだけが不安だった。近走を見ていると、2番手3番手のレースが多かったロゴタイプが、あるいはとも浮かんだが、3・4年前に朝日杯や皐月賞を勝ったときの切れまくった瞬発力を想い出すと、いやまさかと否定せざるを得なかった。
しかし、しかしである。そのロゴタイプが好スタートを決めて先頭に立った武豊ディサイファを外から交わして、スタート直後の200mの間に逃げの体制を築いたのである。
オーッと、心が騒いだ。ロゴタイプ初めての逃亡劇。さてその結末や如何に?
すでにこの時点で、T.ベリー騎乗のモーリスが2番手を確保。ドバイでムーアに栄冠を取られた福永祐一のリアルスティールが外から3番手を進んだ。
前半5F35秒。マイル戦としては平均ペースで、田辺裕信ロゴタイプが逃げる。しかしモーリスから後の馬たちは、折り合いに苦労している馬たちばかりだった。特にT.ベリーの上下動が大きかった。
4コーナー。たまらず蛯名正義イスラボニータが外から先団に並びかけてくる。しかしこの馬は、馬群の中から闘志をむき出しにして伸ばしてやった方がいいタイプなのだが・・・。
インコースを逃げる田辺裕信ロゴタイプは、最短距離を上り33秒9の脚で決めた。最後の坂の辺りの200mでは10秒台の逃亡だった。これでは他馬は追いつけない。皐月賞以来の3年2か月振りの勝利を、ロゴタイプは自身3度目のG1制覇で決めたのである。
あれだけ騎手の上下動の激しかったモーリスが辛うじての貫禄を見せて2着を確保。ハナ差で直前に骨折のC.ルメールから乗り替わった内田博幸フィエロが3着。ダービージョッキー川田将雅のサトノアラジンが4着、結果的に馬群を抜け出すのではなく外から正攻法の競馬をせざるを得なかったイスラボニータは5着だった。
ロゴタイプの3年2か月ぶりの勝因は、今回は騎手田辺裕信の手腕に寄るところが多いだろう。調教師は不満だったらしいが初めて最終追い切りを軽めにしたこと、そしてメンバーを見据えたうえでこれもまた初めて逃げてレースの主導権を確保したこと、それらがおそらく複合的な要因となってロゴタイプ自身の競走馬としての血を再び滾らせたのではないだろうか?気分が乗って血が滾れば、G1戦の2勝馬は、4勝のモーリス以外にはこの馬しかいなかったのである。
モーリスの敗因は、香港遠征から帰って、着地検疫をこなしながら1か月後に安田記念を迎えるという調整過程で、馬が精神的にストレスを抱えていたとしか考えられない。ムーアやモレイラが騎乗したときのレースでの折り合いと、この日の安田記念の折り合いはまるで別の馬のようだった。ベリーの手腕に原因を見るのはおそらく誤りだ。これだけ日本馬が海外遠征をする時代になった今、改めて検疫の方法方策が議論されなければならなくなっているということではないだろうか?
今朝は寝覚めも良く、元気に早起きできた。絞って狙って的中する快感は、たとえ馬連であっても、あるいは少ない額であっても、心地が良いものだ。まあ、よそ様から憎まれないように、めったにないことだからと、言っておこうか。
本当は、ロゴタイプとモーリスとイスラボニータ3頭の3連単ボックスも少々抑えておいたから、いやはや最後の直線の攻防は、実は手に汗握る思いでドキドキしてました。やはりこのドキドキ感が明日への糧となります、ハイ・・・・。
ゴールイン後に、「そうか、前を行った2頭で決まったのか・・」と、ようやく気づいたのだった。
思えば、私の安田記念は、ダービーデイの帰り道から始まっていた。競馬場から大レース後の定例の府中三松での飲み会に向かう途中に、文春の編集者Fから「次は安田記念ですね。良いメンバーが揃うようですよ」と言われ、そう言えばと、古馬マイラー路線の出走馬を思い浮かべて、「そうか。軸は世界のモーリスだし、相手は好きなイスラボニータとロゴタイプなら面白いんだけど・・」と軽口を叩いていたのだ。
ドバイで、おそらくはR.ムーアに全力で走らされてしまっただろうリアルスティールや、前走のトライアル京王杯SCを圧勝してしまったサトノアラジンには、何となく勝負気配のベクトルの下降が感じられて気乗りがしなかったし、何よりもサトノアラジンはその前のダービー卿チャレンジTで、斤量が1Kg重かったロゴタイプに追いつけずに負けていた。ならば、この日やはりダービーを勝てなかった蛯名正義の騎乗するイスラボニータや、田辺裕信の騎乗3戦目となるロゴタイプに食指が動いたのである。
それからの1週間は、その瞬間をただただ待っている身としては長かった。ひたすら静かにじっと時間の過ぎるのを、耐えるように待っていた気がする。
最終追い切りからパドックまでの時間が、特にいつもより長く感じられてならなかった。時間には、正確に刻まれる機械的な時間と、感情や意識が織りなす時間がある。当然、このふたつの時間は、感じ取る側の都合で長くなったり短くなったりするものなのだ。
でも、やがてそのときは来る。
土曜の夜に競馬新聞を買う。私は、「研究ニュース」を選んでいるが、この新聞は以前の「競馬研究」がリニューアルされたものだ。調教欄が見やすくて、私はずっと「競馬研究」の読者だったが、何よりも「競馬研究」はある種独特な知性を発揮している編集で特化していた面があったが、「研究ニュース」になってからは、この独特な要素が極力排除されて、普通の競馬専門紙になってしまっているのが残念に思えてならない。時流に合わせようとすると、予想における予想者の思想哲学も消えてしまうのに・・・。
と、ブツブツ呟いているうちに日曜日。競馬場には行かず、午前中は、居間の水槽を覗いて今年生まれたミナミヌマエビの子供(まだ2mmほどだが髭も目玉も足もちゃんとそれらしい姿でピクピクと跳ねている)を眺めたり、外のメダカに餌をやったりして過ごした。
午後になって机の前に座り、GCを視聴しながら、安田記念の最終チェック。新たに何かを見つけるのではなく、心に決めている結論を、何とか自分に対して正当化するのだ。
10Rハンデ戦1400mの由比ガ浜特別を迎えて出走馬を眺めていると、何となく閃いて気が向いて、4頭の馬を選び出した。メイショウメイゲツ、シルヴァーグレイス、クレアドール、ショウナンライズ。様子見だからと、何とか馬連3点にしたくて導き出した結論は、武豊メイショウメイゲツから馬連3点。しかし・・・。
結果は、ショウナンライズ、シルヴァーグレイスで決まり、ロングショット。クレアドールは4着で、メイショウメイゲツは惨敗だった。アーッ・・・。でも、とりわけ思い入れて買った訳ではないので、これもまた競馬と、すぐに気を取り直して安田記念の私の結論は何も変えなかった。
私にとって、この安田記念の最大の謎は、どの馬が先手を取るのか?ということに尽きた。選んだ3頭は、力通りに走ったならどの馬も好位からスパッと差す馬だった。スパッと差し切るには、ある程度レースが流れて、それでも底力を発揮して伸びてくる必要がある。では、先導役はどの馬なのかと考えると、安田記念の12頭の出走馬の中で、これだ、この馬がペースを創る!という馬がはっきりとはしてこなかった。それだけが不安だった。近走を見ていると、2番手3番手のレースが多かったロゴタイプが、あるいはとも浮かんだが、3・4年前に朝日杯や皐月賞を勝ったときの切れまくった瞬発力を想い出すと、いやまさかと否定せざるを得なかった。
しかし、しかしである。そのロゴタイプが好スタートを決めて先頭に立った武豊ディサイファを外から交わして、スタート直後の200mの間に逃げの体制を築いたのである。
オーッと、心が騒いだ。ロゴタイプ初めての逃亡劇。さてその結末や如何に?
すでにこの時点で、T.ベリー騎乗のモーリスが2番手を確保。ドバイでムーアに栄冠を取られた福永祐一のリアルスティールが外から3番手を進んだ。
前半5F35秒。マイル戦としては平均ペースで、田辺裕信ロゴタイプが逃げる。しかしモーリスから後の馬たちは、折り合いに苦労している馬たちばかりだった。特にT.ベリーの上下動が大きかった。
4コーナー。たまらず蛯名正義イスラボニータが外から先団に並びかけてくる。しかしこの馬は、馬群の中から闘志をむき出しにして伸ばしてやった方がいいタイプなのだが・・・。
インコースを逃げる田辺裕信ロゴタイプは、最短距離を上り33秒9の脚で決めた。最後の坂の辺りの200mでは10秒台の逃亡だった。これでは他馬は追いつけない。皐月賞以来の3年2か月振りの勝利を、ロゴタイプは自身3度目のG1制覇で決めたのである。
あれだけ騎手の上下動の激しかったモーリスが辛うじての貫禄を見せて2着を確保。ハナ差で直前に骨折のC.ルメールから乗り替わった内田博幸フィエロが3着。ダービージョッキー川田将雅のサトノアラジンが4着、結果的に馬群を抜け出すのではなく外から正攻法の競馬をせざるを得なかったイスラボニータは5着だった。
ロゴタイプの3年2か月ぶりの勝因は、今回は騎手田辺裕信の手腕に寄るところが多いだろう。調教師は不満だったらしいが初めて最終追い切りを軽めにしたこと、そしてメンバーを見据えたうえでこれもまた初めて逃げてレースの主導権を確保したこと、それらがおそらく複合的な要因となってロゴタイプ自身の競走馬としての血を再び滾らせたのではないだろうか?気分が乗って血が滾れば、G1戦の2勝馬は、4勝のモーリス以外にはこの馬しかいなかったのである。
モーリスの敗因は、香港遠征から帰って、着地検疫をこなしながら1か月後に安田記念を迎えるという調整過程で、馬が精神的にストレスを抱えていたとしか考えられない。ムーアやモレイラが騎乗したときのレースでの折り合いと、この日の安田記念の折り合いはまるで別の馬のようだった。ベリーの手腕に原因を見るのはおそらく誤りだ。これだけ日本馬が海外遠征をする時代になった今、改めて検疫の方法方策が議論されなければならなくなっているということではないだろうか?
今朝は寝覚めも良く、元気に早起きできた。絞って狙って的中する快感は、たとえ馬連であっても、あるいは少ない額であっても、心地が良いものだ。まあ、よそ様から憎まれないように、めったにないことだからと、言っておこうか。
本当は、ロゴタイプとモーリスとイスラボニータ3頭の3連単ボックスも少々抑えておいたから、いやはや最後の直線の攻防は、実は手に汗握る思いでドキドキしてました。やはりこのドキドキ感が明日への糧となります、ハイ・・・・。
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