記念小冊子を想い出していたら、むしょうに第80回ダービーを振り返ってみたくなった。
これは3年前に綴った私自身の記録である。
photo by K.Ishiyama©
<2013 5月 了>
部屋にいると少し蒸し暑さを覚えたが、外は適度に風がそよぎ、絶好のダービー日和となった。
東京競馬場には14万人の大観衆が集った。
15時40分にスターターの小旗が振られると、14万人の熱気はウォーッという地鳴りのような大きな雄叫びを響かせ、その中でファンファーレが鳴った。いつも以上の興奮が場内を支配していた。
15時45分過ぎ。大観衆は、ただ1頭芝コースを引き上げて来る武豊キズナに向かって、ユタカ!ユタカ!とコールを投げかけて、勝者を称えた。それは、ディープインパクト以来8年振り5回目のダービー制覇を成し遂げた武豊と、直線外からまるで父ディープインパクトのダービーを想い出させるかのように豪快に差し切ったキズナへの祝福の大声援だった。
微笑ましく第80回日本ダービーは終わった・・・。
ここで書き終えるのも、何か含むところがあるようで、そっけない。以下は、「私自身のダービー」ということで追記していこう。
武豊が、前走のような後方いっきの騎乗をすることは予想通りだった。上がり3F(600m)33秒5の脚力を、騎手武豊は最大の武器にして、その通り闘って勝利を引き寄せたということだろう。
レースの決着タイムは2分24秒3。9Rの1000万条件戦で2分25秒1だったから、それなりに時計の出る馬場での標準タイムだったろう。そう思えば、インでもっと粘る馬がいてもおかしくはなかった。とすれば、勝ち馬はともかく、80回ダービーのレヴェルは意外に低かったと、私には思えてならない。
その原因は?そう考えると、いくつかのことが言える。
私の見たかった幻のダービーを頭に描いてみよう。
M.デムーロの騎乗したロゴタイプのレースを見たかった。最後に伸びずに5着に終わったが、もうひとつ先に抜け出してその勢いでゴールを目指した皐月賞のミルコの騎乗がロゴタイプにとって理想だとすれば、弟C.デムーロのこの日の騎乗は物足りなかった。弾ける馬と共に、自らも弾ける騎乗が、桜花賞を勝って以来消えているような印象がある。心をもう一度入れ替えて欲しいと願う。
横山典弘の乗ったコディーノも見たかった。1コーナーまで掛かって止まなかった姿を見ると、この日のダービーでそうさせないためにどうするかと中山での皐月賞まで精進して耐えていた横山典弘なら、ウィリアムズとはまた違った結果を導き出したはずだ。そう思う。同じように掛かってしまったとしても、乗りなれた分、対処の方法もあったのではないか?今回の騎乗交代には、オーナーサイドか調教師の選択かはまだ判らないが、目先の利を求めたような事実に、大きな不満が残っている。
エピファネイア。控えられた最終追い切り、パドックでの伸びやかではない歩様、ソエが出たとの角居調教師のコメント等々を考えると、そんな状態で良くぞここまでと言える好走ではあったが、福永祐一にはぜひこんな話を伝えたい。
レース前、私は作家古井由吉とこんな会話を交わした。
「狂うことが大事なんですよ。狂わなかったら絶対に勝てないレースがあるんですから」
「ダービーは狂わなければいけない情念のレースですよね。でも落馬負傷して闘病生活をする父洋一の姿を見て育った祐一は、ある種いい子であらねばならなかったでしょう。でももう、その仮面を脱ぎ捨てる時期が来てますよね」
「狂えたら良いんですがね・・勝てるかも知れませんよ」
ゴール直前、先頭に立った福永祐一エピファネイアだったが、残り30mで武豊キズナに交わされて痛恨の2着。やはり狂えなかった。狂って傍若無人に狂い舞を演ずる壁を超えられなかった。騎手という表現者として自己破壊を怖れるな。この自らを包み込んでいる限界点を狂うことで超え得たなら、福永祐一は、きっと日本の競馬をその肩に背負える騎手になる。変わって行くことを怖れてはいけない。そこにこそ君の本当の世界があると信じて欲しい。
アポロソニックの勝浦正樹は、好騎乗で3着を確保した。自らが何をしたら納得する結果を求められるのかと、勝負を決め打ったからだ。ひるまず先行して馬の良さを引き出す。それでダメなら全ての結果を背負い切るという覚悟を持って乗っていた。だからこその3着だった。今回の気持ちを忘れずに、馬の個性を大事にして、いつも攻め切る騎乗を続けたなら、いぶし銀の騎手と呼ばれるようになるだろう。デビューしたての若いときにはラフな騎乗と批判も受けたが、今はもう、それだけのものを持つ騎手となって成長している。さらに精進して欲しい。
走っても走っても、何故か人気にならない和田竜二タマモベストプレイ。今回もそれだけの走りは見せた。実は、人知れず私好みの馬で、これからも和田竜二の騎乗を前提に中距離戦で応援し続けようと思っている。
NHKマイルCの覇者柴田大地マイネルホウオウ。おそらく最初から狙ったローテーションではなく、マイルCの結果を受けての 急遽参戦ではなかったのか?追い切りの好状態から、もっと走ると思えたが、案外な結果に戸惑いを覚えているのは、私だけではないだろう。やはり最高に闘った次のレースは、どこか馬の芯の部分が腑抜けてしまうようだ。
ともあれこうして記念すべき第80回ダービーは終わった・・・。
第80回を記念したアニバーサリーブックは、午前11時前には、20000部全てがファンの手に渡っていたという。ファンの心に響くこんなサービスが、全てのG1戦で続いたら、新しいファンも増えて行くに違いない。ぜひ続けて欲しい企画である。JRAの英断を期待して止まない。
これは3年前に綴った私自身の記録である。
photo by K.Ishiyama©
<2013 5月 了>
部屋にいると少し蒸し暑さを覚えたが、外は適度に風がそよぎ、絶好のダービー日和となった。
東京競馬場には14万人の大観衆が集った。
15時40分にスターターの小旗が振られると、14万人の熱気はウォーッという地鳴りのような大きな雄叫びを響かせ、その中でファンファーレが鳴った。いつも以上の興奮が場内を支配していた。
15時45分過ぎ。大観衆は、ただ1頭芝コースを引き上げて来る武豊キズナに向かって、ユタカ!ユタカ!とコールを投げかけて、勝者を称えた。それは、ディープインパクト以来8年振り5回目のダービー制覇を成し遂げた武豊と、直線外からまるで父ディープインパクトのダービーを想い出させるかのように豪快に差し切ったキズナへの祝福の大声援だった。
微笑ましく第80回日本ダービーは終わった・・・。
ここで書き終えるのも、何か含むところがあるようで、そっけない。以下は、「私自身のダービー」ということで追記していこう。
武豊が、前走のような後方いっきの騎乗をすることは予想通りだった。上がり3F(600m)33秒5の脚力を、騎手武豊は最大の武器にして、その通り闘って勝利を引き寄せたということだろう。
レースの決着タイムは2分24秒3。9Rの1000万条件戦で2分25秒1だったから、それなりに時計の出る馬場での標準タイムだったろう。そう思えば、インでもっと粘る馬がいてもおかしくはなかった。とすれば、勝ち馬はともかく、80回ダービーのレヴェルは意外に低かったと、私には思えてならない。
その原因は?そう考えると、いくつかのことが言える。
私の見たかった幻のダービーを頭に描いてみよう。
M.デムーロの騎乗したロゴタイプのレースを見たかった。最後に伸びずに5着に終わったが、もうひとつ先に抜け出してその勢いでゴールを目指した皐月賞のミルコの騎乗がロゴタイプにとって理想だとすれば、弟C.デムーロのこの日の騎乗は物足りなかった。弾ける馬と共に、自らも弾ける騎乗が、桜花賞を勝って以来消えているような印象がある。心をもう一度入れ替えて欲しいと願う。
横山典弘の乗ったコディーノも見たかった。1コーナーまで掛かって止まなかった姿を見ると、この日のダービーでそうさせないためにどうするかと中山での皐月賞まで精進して耐えていた横山典弘なら、ウィリアムズとはまた違った結果を導き出したはずだ。そう思う。同じように掛かってしまったとしても、乗りなれた分、対処の方法もあったのではないか?今回の騎乗交代には、オーナーサイドか調教師の選択かはまだ判らないが、目先の利を求めたような事実に、大きな不満が残っている。
エピファネイア。控えられた最終追い切り、パドックでの伸びやかではない歩様、ソエが出たとの角居調教師のコメント等々を考えると、そんな状態で良くぞここまでと言える好走ではあったが、福永祐一にはぜひこんな話を伝えたい。
レース前、私は作家古井由吉とこんな会話を交わした。
「狂うことが大事なんですよ。狂わなかったら絶対に勝てないレースがあるんですから」
「ダービーは狂わなければいけない情念のレースですよね。でも落馬負傷して闘病生活をする父洋一の姿を見て育った祐一は、ある種いい子であらねばならなかったでしょう。でももう、その仮面を脱ぎ捨てる時期が来てますよね」
「狂えたら良いんですがね・・勝てるかも知れませんよ」
ゴール直前、先頭に立った福永祐一エピファネイアだったが、残り30mで武豊キズナに交わされて痛恨の2着。やはり狂えなかった。狂って傍若無人に狂い舞を演ずる壁を超えられなかった。騎手という表現者として自己破壊を怖れるな。この自らを包み込んでいる限界点を狂うことで超え得たなら、福永祐一は、きっと日本の競馬をその肩に背負える騎手になる。変わって行くことを怖れてはいけない。そこにこそ君の本当の世界があると信じて欲しい。
アポロソニックの勝浦正樹は、好騎乗で3着を確保した。自らが何をしたら納得する結果を求められるのかと、勝負を決め打ったからだ。ひるまず先行して馬の良さを引き出す。それでダメなら全ての結果を背負い切るという覚悟を持って乗っていた。だからこその3着だった。今回の気持ちを忘れずに、馬の個性を大事にして、いつも攻め切る騎乗を続けたなら、いぶし銀の騎手と呼ばれるようになるだろう。デビューしたての若いときにはラフな騎乗と批判も受けたが、今はもう、それだけのものを持つ騎手となって成長している。さらに精進して欲しい。
走っても走っても、何故か人気にならない和田竜二タマモベストプレイ。今回もそれだけの走りは見せた。実は、人知れず私好みの馬で、これからも和田竜二の騎乗を前提に中距離戦で応援し続けようと思っている。
NHKマイルCの覇者柴田大地マイネルホウオウ。おそらく最初から狙ったローテーションではなく、マイルCの結果を受けての 急遽参戦ではなかったのか?追い切りの好状態から、もっと走ると思えたが、案外な結果に戸惑いを覚えているのは、私だけではないだろう。やはり最高に闘った次のレースは、どこか馬の芯の部分が腑抜けてしまうようだ。
ともあれこうして記念すべき第80回ダービーは終わった・・・。
第80回を記念したアニバーサリーブックは、午前11時前には、20000部全てがファンの手に渡っていたという。ファンの心に響くこんなサービスが、全てのG1戦で続いたら、新しいファンも増えて行くに違いない。ぜひ続けて欲しい企画である。JRAの英断を期待して止まない。
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