(ライティング:3月29日)
3月26日(土)日本時間の深夜にワールドカップデイ、翌27日に高松宮記念と、先週末は世界のG1デイとなった。
高松宮記念。4歳馬から8歳馬まで多士済々のメンバーが集ってはいたが、よくよく考えてみると、より若い世代がこのレースを境に台頭する短距離界の世代交代が明らかになるレースだと、私には思えてならなかった。
最終追切からパドックをじっと眺めた私は、おそらく福永祐一が初騎乗するビッグアーサーが2着は外さないレースとなるだろうと推理していた。スピードに対する適応能力の高さは、このメンバーの中で明らかに上位だったからだ。
Bコースになった先週の中京は、それまでとはいっきに装いを変えて高速馬場となっていた。好タイムが続出する馬場となっていたのである。何故、中京の馬場造園課がこんな風に馬場調整したかは解らないが、G1週を迎えるにあたっての意図的な人為調整であったのは間違いない。当日の第7R500万条件戦ですら、コースレコードを上回る1分7秒3の決着タイムだったから、自然に任せた芝状態ではなかったことは理解できる。
ならばレースの前半戦は、G1に挑むメンバーならハイペースに流れるに決まっている。前半をどう乗りこなすかが、騎手に試される技量となった。
中井ローレルベローチェ、酒井ハクサンムーン、松山ミッキーアイルを先に行かせて、福永祐一ビッグアーサーがスーッと好位のポジションを確保したとき、私は「勝負あった」と見極めた。アクシデントさえなかったら、勝つのはこの馬だと。まだスタートして15秒ほどの段階でである。
その通りになった。前半3F32秒6の速い流れの中、好位を確保して進んだ福永祐一ビッグアーサーは、4コーナーから外に出して、危なげなく先に抜け出した松山弘平ミッキーアイルをゴール前で交わし、G1馬となった。1分6秒7のレコードタイムでの勝利。それは、これからの短距離界のエース誕生の瞬間でもあったろう。
逃げなくてもあわや勝利というところまで闘ったミッキーアイルもさすがだった。ほんの少しだけ勝ちに逸った松山弘平には、とてつもなく大きな学習となったと言えるのではないだろうか。この敗戦で勝負の何かを掴んだなら、これからがさらに期待できる騎手になるはずだ。そうなるための許された時間が、若い松山弘平にはある。
3着は中団から馬群を縫って差してきたC.ルメール騎乗の4歳牝馬アルビアーノが確保した。この馬が昨年秋スワンSを33秒5の差し脚で抜け切ったときは驚いたが、今や短距離界のヒロインである。ヴィクトリアMに出走して来たら本命馬となるだろう。
ともあれ、昨年12月の落馬負傷から復帰した福永祐一は、本調子に戻っている。前夜ドバイで勝ったリアルスティールに、彼の地で乗れなかった悔しさもさらなる飛躍のバネになるはずだ。落馬負傷が競馬のオールドファンを悲しませる存在であることを、ずっと忘れずに騎乗して欲しい騎手なのだから。
高松宮記念の前夜には、4つのG1戦とG2のUAEダービーなどが行われたドバイワールドカップデイ。少し微熱があった私は、ウィスキーをあおって早めに寝ついてしまい、結果を確かめたのは日曜の朝となったが、「ああ、ライブで観たかった」と思わず呟いてしまうほどの日本馬の活躍だった。
UAEダービーは、松永幹夫厩舎所属で武豊騎乗の芦毛のラニが力を見せつけるように勝ち、3着にモレイラ騎乗の森厩舎ユウチェンジ、5着にM.デムーロ騎乗の同厩オンザロックスが善戦した。秋天皇賞馬ヘブンリーロマンス産駒ラニはアメリカ・ケンタッキーダービーを視界に入れているという。
G1ドバイ・ターフ芝1800mは、矢作芳人厩舎のリアルスティールが、R.ムーア騎乗で圧勝。直線でのムーアの力強い追い出しに馬が十分に応えた印象だった。これがリアルスティールの本当の姿と思うと、日本での主戦騎手福永祐一が悔しさを覚えたのも当然だろう。
レース後に調教師矢作芳人は言った。「・・・今後はできる限り日本の競馬に出走させたいと思っていますので応援よろしくお願いします」多くのファンが馬券で支える日本の競馬を、きちんと理解している言葉だった。
G1ドバイ・シーマクラシック芝2410m。現在日本のサラブレッドの頂点に立つドゥラメンテが出走する注目すべきレースだった。
堀厩舎とM.デムーロの最強コンビは自信に溢れていたが、レース直前に右前脚の落鉄に見舞われ、スタート時間までに打ち替えることができず、落鉄状態のまま出走してアイルランドのポストポンドの2着に敗れた。直線でのいつもの強力な差し脚が不発だった事実からしても、落鉄の影響は大きかったのだろう。ドゥラメンテの世界制覇の道に、この敗戦が赤信号を灯したとは、私には少しも考えられない。勿論、脚元への何らかの影響がなかったという前提ではあるが。
このレースで3着を確保したのは、引退した松田博調教師から受け継いだ角居厩舎所属のラストインパクトだった。モレイラ騎乗である。この馬は、昨年のJCでムーア騎乗で2着したように、直線で理に適って追える騎手が騎乗したなら、かなりのパフォーマンスを見せる馬であることを改めて証明した。ビシッと追えることは、馬上の騎手の派手な動きのパフォーマンスとは違うのである。
ドバイでの日本馬の活躍を見ると、やはり現在の日本馬のレヴェルが、その裾野までを含めて世界最高水準にあることを証明している。
そして、それもこれも故吉田善哉が導入した1頭のサラブレッドが、大きな歴史的変化を生み出す原動力となったのである。
言うまでもなく、それはサンデーサイレンスだ。この馬を日本に出したアメリカの進化する競馬史は停滞し、逆に日本は、世界に翔く歴史的飛躍を手に入れた。
おそらく後世の競馬史家は、次のように認(したた)めるだろう。
「1990年代後半から21世紀初頭にかけて、日本の競馬は世界に進出を果たした。何と歴史を作り替えたその功績は、ただ1頭のサラブレッドの存在に尽きるのであることは、論を待たないだろう。」
父系母系を問わず、現在日本の活躍馬には、サンデーサイレンスの血が脈々と流れている。
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