世の中がどう動こうと、大災害などで施設が壊れたり、馬の輸送経路となる道路が運行不能とならない限り、決められたスケジュール通りに競馬は開催される。平和の恩恵だ。
10月1日。昼は、中山・芝1200mの短距離G1・スプリンターズS。夜は、仏・シャンティ競馬場芝2400mの世界のG1・凱旋門賞。来年からは新装のロンシャンに戻るが、去年に続き今年まではシャンティの開催だ。
真夏のローカル開催の間は、自分自身の勝負感だけを鈍らせないように配慮して、真夏なのにそれほど熱くもならずゆったりと構えていたが、久々の中央場所でのG1戦となればそれなりに昂ぶる心も生まれてくる。
木曜の夜に、GCの「今週の調教」を録画して、日曜までに数度見返しもした。
馬の走ろうとする気配を、今まで通り自分の感性で見極めようとした。感情移入して誤るときもあるが、冷静に気配を見られたときは、選んだ馬たちがそれなりに上位に好走することが多いのは、経験上判っている。勿論、人気や贔屓に眼光が惑わされないという条件付きだが・・・。
今回、最終的に日曜の午後のパドックを確認して選んだのは、軸はデムーロ・レッドファルクス。相手は、調教もパドックの気配も輝っていた石橋脩・ワンスインナムーンを1番手に、岩田・レッツゴードンキに、後は趣味で笹田厩舎(そう言えば、笹田さんパドックで馬の傍に来るときはサングラスの着用は避けましょうね。この前ちょっと気になりましたから)浜中・ダンスディレクターに、武豊・ダイアナヘイロー。栗東に行って最終追い切りに横山典弘が乗ったシュウジにも、春・高松宮記念の覇者幸・セイウンコウテイにも食指は動かなかった。
いやはや、スプリンターズSのゴール前は燃えた。
ワンスインナムーンが先頭で粘りを見せ、そこにレッツゴードンキが中団インから追い上げて迫り、さらにひと呼吸遅れて外からレッドファルクスが弾ける差し脚で豪快に迫ってきたのだ。
通常なら、レッツゴードンキとワンスインナムーンで決まっていたのかも知れない。しかしレッドファルクスのゴール前の坂を上り切った後のわずか1Fに満たない距離での差し脚は驚異的だった。ゴールでは、全ての馬たちを交わし切っていた。凄い・・・。
レッドファルクスは、スプリンターズSの2連覇を達成。過去には、サクラバクシンオーとロードカナロアだけしか成し遂げていない記録である。やがての種牡馬としての輝ける未来までももぎ取ってしまったのかも知れない。
それにしても、スプリンターズSの前の10R1000万条件ハンデ戦の勝浦特別。前半3Fが33秒1で流れ、内田・クラウンアイリスの勝ちタイムは1分7秒8。後半の上り3Fは34秒4だった。
スプリンターズSは、前半3F33秒9。勝ちタイムは、1分7秒6。後半の上り3Fは33秒7。
ほとんど数字が変わらないが、しかしそこにレース自体の威圧感などが含まれているから、レースは魔性の生き物なのだろう。私には、10R とG1スプリンターズSの決着タイムがほぼ同じだとは思えなかった。ゴール前の激戦の迫力はまるで別世界のものだったのである。
夜、10時からのGCの生放送「凱旋門賞」。10時半過ぎから視聴した。
デットーリ・エネイブルの強さは圧倒的だった。直線早めに抜け出して。並み居る牡馬たちを一瞬たりとも寄せ付けず、まさに正当な横綱相撲での圧勝劇を世界に見せつけたのである。それは、かつてのダンシングブレーヴやラムタラの衝撃に並び得るものだった。
3歳英国牝馬のG1・5連勝での凱旋門賞初勝利、鞍上のL・デットーリも歴代単独1位となる凱旋門賞5勝を達成。ぜひ来年は、新装なったロンシャンでの凱旋門賞の後にJCに来て欲しいと願わざるを得なかった。JRAはエネイブルに特別ボーナスを用意してでも招待して欲しいものである。
翌日、私は町に降りて1本のウィスキーを買った。スプリンターズSの的中と凱旋門賞の圧勝劇が、思わずそうさせたのである。
それをショットグラスに注いで、ゆっくりと舌と喉で味わった。
その時間は、一瞬現実を遊離できる幸福な時間となった。ワンスインナムーンが2着に粘り切ってくれたら・・・などと未練たらしく思うことはなく、ただただ馬たちの素晴らしい劇の余韻に浸っていた・・・。
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