スキップしてメイン コンテンツに移動

10月23日 菊花賞~京都競馬場芝3000m

朝蕎麦を用意して食べ終え、温まった体と心で菊花賞のスタートの時間を待った。待ち遠しかった。

というのは、トライアル神戸新聞杯(阪神芝2400m)を見終えてから、菊花賞の勝負馬を決めていたからである。勝ったサトノダイヤモンドではなく、5着に敗れたエアスピネルだった。

あの日、武豊は好位からの先行する競馬ではなく、後方13番手からの競馬をした。まるでエアスピネルの脚を試すようにだ。明らかにトライアル戦でしかできない試行に挑んで、エアスピネルの新しい可能性を見出そうとしていたのだった。

結果は、4コーナーで大外を廻って5着。これなら本番菊花賞では必ず好位から差す競馬に戻して、勝負を賭けてくるなと、私は踏んだのだ。騎手が何かを意図して新しい境地を開こうとした馬は、長く競馬を見守った経験上から言えることだが、もう一つ変わってくる場合が多い。本番で成功すれば、ロングショットにもなる。挑んで敗退することで、人気が下がるからである。あの瞬間から、私のターゲットは、菊花賞となったのだ。シンハライトが故障で出られなくなったこともあり、秋華賞もそれほど熱くならずに、じっと菊花賞を待っていた。

神戸新聞杯と中山のセントライト記念を比べても、どう見ても神戸新聞杯の方がレヴェルが高かったと思えてもいた。だからサトノダイヤモンドとディーマジェスティの一騎打ちとなるとも思えなかった。一騎打ち人気が高まるなら、それは幸いとさえ笑みを浮かべていた。勝負は別の馬なんだよなと。

パドックを見て、少し詰まった馬体に感じたディーマジェスティは、3000mよりも2400mの馬に見えたことも安心材料だった。サトノダイヤモンドの方が明らかに伸びやかな馬体だった。エアスピネルもパドック気配は万全に見えた。

だから勝負は、馬連でエアスピネルからサトノダイヤモンドが大本線。あとは趣味でこれまで応援してきたプロディガルサン、レッドエルディスト、念のためディーマジェスティへほんの少々。それで2016菊花賞はOKと、安心したのである。



3分3秒3。中断外から4コーナーを廻って、そのままC.ルメール・サトノダイヤモンドが危なげなく抜け出して勝ち上がったとき、武豊エアスピネルはインの2番手で粘ろうとした。外から福永祐一レインボーライン、わずかに遅れて蛯名正義ディーマジェスティが伸びて追いすがろうとしてきた。

粘れ!スピネル!!思わずGCのTV画面に向かって叫んでしまった。

2番手の馬たちがゴールになだれ込んだとき、画面では武豊エアスピネルが何とか粘り切ったように思えたのだが・・・。

それはつかの間の依怙贔屓でしかなかった・・・。スロー再生が流れると、レインボーラインがほんの少しだけ届いているように見えた。ああ・・・。私は一瞬声を失ったようだ・・・。

でも気を取り直して、それでも強気に呟いた。「勝負の見極めはあやまってはいなかった」と。そう言いながらも、落胆はつきまとっていたのだったが・・・。

こうして私の菊花賞は終わったのである。この悔しさと落胆が、いつの間にか2016菊花賞の宝物となる想い出となっていくのだ。



C. ルメールの騎乗は完璧だった。不利や不安などどこにもなく、自在にインから外へと馬を操り、4コーナーからは圧巻の追い出しを決めたのである。

引き換えエアスピネルは、道中絶えず他馬に気を使ってか、首を振ったりよれるようにしてみたり、少しばかり気負った素振りをみせていた。武豊の手綱を握るこぶしの位置も高く、なだめようと苦心していたことが解る。

最初の1,000m(5F )が59秒9。次の5Fが64秒5とペースがいっきに落ちたこともあって、好位から中団の馬たちが入れ替わり立ち替わりに馬群の中で行ったり来たりして、隊列が安定しなかったことも大きく影響したはずだ。いつもなら長距離レースの隊列は、一度決まるとそれほどの乱れはないものなのにである。私の推理が崩れたのも、こんな予想外の馬群のゴチャツキにあったとしか言えない。たぶん騎手武豊の心境も同じだったろう。なんで隊列が安定しないんだと。まあ、それも競馬の勝負なのだ。



それよりも何よりも、ゴール前のシーンで私が愕然としたことがあるのだ。いや馬券を離れてのことなのだが。

それは、日本競馬の生んだスター騎手武豊の肉体の衰えを、ついに実感してしまったことだった。
私にとって武豊は、少なくとも大舞台でハナ差で負けることはない騎手であり続けていた。ハナ差でも勝ち切る騎手だった。

それは、武豊が自らの騎手魂から発する<気>を手綱を通して確かに馬に伝え、故にそれを受けて馬もさらにもう一つ狂惜しく踏ん張り抜くことで、あたかも奇跡の実現のように達成してきた。しかしみなぎる<気>を馬に伝えるのは、凄まじく体力のいる作業となるだろうことは予想できる。全ての精力を尽き果てんばかりに注ぎ込む消耗戦の作業なのであるからだ。

でもそんな凄味が、この日はもう失われていた。逆にルメールの方がそんな<気>に満ち満ちていた。あるいは世界を見渡せばムーアやモレイラも、それを実現することで今頂点にあるのだといえる。

気がつけば武豊ももう47歳。アスリートとして<気>を発揮するには、体力的に厳しくなっているのだろう。年齢的には、技でかわす技巧派タイプに変ずる瞬間を迎えているのかも知れない。

そんな現実を知らされた気がする。古来より「不老不死」は幻想でしかないのだから。



2着をハナ差で確保した福永祐一レインボーライン。やることなすことがすべて裏目に出てしまったスプリンターズSの敗退(ビッグアーサー)で、悪いリズムが底を打ち、今ベクトルが上向いているということではないか。秋華賞制覇(ヴィブロス)にもそのことは見て取れる。

4着蛯名正義ディーマジェスティ。2400m辺りのレースで、再度この馬の真価を見てみたいものだ。この日は外々を廻らせられてか、あるいは3000mのレースの適性なのか、らしさがかすんでいたようだった。



そんなこんなで、私の勝負レースだったはずの2016菊花賞が終わった。あぁ・・・ッ。

この弔い合戦は、今週末の天皇賞だ。世界レヴェルの古馬の精鋭が集う予定である。

あぁ・・・ッ。










コメント

このブログの人気の投稿

凄いぞ 凄い!! イボタ蝋!!

イボタ蝋のワックス効果に驚いたのは、5年前の秋だった。 日本の職人ツールは、やはり想像以上に凄かった。 いろいろと使ったのだが、まだ2/3が残っている。 これはそんなお話である。                <2011 10月了> 山から下りて町に出た。 用を足して、少し時間があったので知り合いのリサイクルショップを冷やかしに行った。 店内をグルリと見て回った。とりわけ欲しいものがあったわけではないが、まあお客の振りをしてみたんです。 と、なんと写真の「イボタ」蝋が、奥まった棚に載せられていた。 この「イボタ」は、プロの職人が古くから家具などの磨き艶出しに使っているもので、水蝋樹(イボタの木)につくイボタロウ虫の雄の幼虫が分泌した蝋を、加熱溶解して冷水中で凝固させたものだ。硬く緻密で、万能の効果があると言われている。 効用は、木工の艶出し以外にも、蝋燭、薬の丸薬の外装や、絹織物の光沢付けにも使われる。今では、結構高価なのだ。 急に欲しくなって、知人の店主に訊いた。 「このイボタ、いくら?」 「一つ持てば、一生物だから、まあ3000円かな。でも売ろうと思ってたわけじゃないんで・・」 「OK。そこを何とか2000円」 「うーん・・まあいいか」 「ハイ、2000円」 私は、即座に買ってしまった。 家に帰って、すぐに手持ちの屋久杉の盆に使ってみた。 結果は? いやすばらしかった。凄いと言っても大袈裟ではなかった。 いつもは、まるで宇宙のような屋久杉木地の杢模様を確かめて愉しんでいる皿盆で、それなりに光沢はあったのだが、それがさらに艶と輝きを増したのだ。アンビリーバブル・・・ やはり日本の職人のツールはすばらしい。これを使えば、多分1000年前の仏像でも、鮮やかに変貌を遂げるだろう。もう手放せないな、きっと。

2017秋華賞~京都・内回り芝2000m 

先週の京都大賞典を横山典サウンズオブアースを軸にして、いわゆる縦て目の抜けで取り損ねたために、意気消沈して過ごした1週間だったのだが、思わぬ結末が待っていて、土曜の午後には予期せぬ微笑みに包まれてしまった。 まあ、こういうことがたまにはなかったら、楽しみのない人生になってしまう。そう思うと、頬の筋肉はさらに緩んでしまった。 と言うのは、こんな流れだった。 縦目で逃した京都大賞典の落胆と反省は、私にはダメージが大きく、一瞬頭をボーッとさせてしまっていたようだ 。ボーッとした中で、エエイとばかりに、まだ消してなかったAパットのキー操作をして、京都大賞典の後に行われた岩手・盛岡の南部杯(交流G1ダート1600m)を、ほんの少しだけ馬連で買ってしまったのである。先行するだろう吉原ノボバカラから、連覇を目指す田辺コパノリッキー、中野省キングズガイ、川田ゴールドドリームへの馬連3点だった。 その後GCはつけっ放しにして、レースの生中継も見たが、ゴールインした瞬間、圧勝したコパノリッキーに目を奪われて、何と2着にはキングスガイが届いたのだと錯覚して、そのままTVを消してしまったのである。京都のショックが尾を引いて、やはり頭はボーッとしたままだった。 それから1週間、反省の日々で何とか過ごしていた。土曜の午後に明日の秋華賞の軍資金は少しはあったのだろうかと、念のためネットバンクを調べてみると、何と思いがけず予想外に増えていた。取引明細を見てみると、どうやらJRAから振り込みがあったらしい。JRAの購入記録を見ても、毎日王冠は的中だったが、その配当は京都大賞典で失くしていた。だからJRAから振り込まれる筈はなかった。 そこで思い当たった。そう言えば南部杯を買っていた。そこでAパットの地方競馬から南部杯の購入記録を調べてみると、ノボバカラとコパノリッキーの馬連を確かに買っていたのだ。しかもノボバカラが人気の盲点となって、馬連は万馬券の結果だったのである。その配当が、JRAから振り込まれていたのだった。 ヒャーッ・・・。私は、この1週間を忍耐と反省の日々で耐えていた。ああ、それなのに、それなのに・・・。と、なれば、1週間の反省と忍耐は、そもそも無駄なことだったのか?いや、それを言ったらお終いかも・・・。 とにもかくにも、結果を知らずにいた

2017秋・天皇賞(東京芝2000m)~やっぱり雨の中

  台風21号が北上し列島を抜けたかと思ったら、また週末に台風22号が通過した。週内からはずっと雨模様が続き、秋・天皇賞のスピード決着は望むべきもなかった。 関東では、土日にかけて雨脚は強まり、これはまた菊花賞と同じようなパワフルな競走馬魂が試されることになると、誰もが確信したに違いない。今や世界競馬の頂点に駆け上がっている日本競馬の巨大グループが、主として日本の競馬のために生産する名馬たちは、日本の軽い馬場に即応したスピードタイプの馬たちが多いから、秋華賞、菊花賞のような力とそれに耐えるだけの強靭な精神力が試されるような馬場になると、果たしてどの馬にスポットライトが照らされるのかが曖昧模糊とならざるを得ないのが、競馬ファンが直面する現実なのだ。 東京競馬場には11時ごろに到着した。西玄関受付から7階に上がり、しばらく椅子に座ってじっとしていた。大雨の中、競馬場に駆けつけるのも体力と気力が必要で、気儘勝手な山暮らしの身にはきついものがある。 雨は午後にはさらに強まる気配が濃厚で、途切れることなく馬場に降り注いでいる。それでもこの日、6万4千人のファンがどこやらから集ってきていた。これだけの豪華メンバーが揃えば、ライブで見たいと思うのは当然だろうし、雨が煙る不良馬場の秋・天皇賞などずっとなかったから、記念すべき記憶となる価値もあったろう。的中すれば喜びに包まれた記憶ともなるだろうし・・・。 何となくピーンと来た6Rの松岡正海ローレルジャックの単勝を買ってみただけで、9Rまでは競馬新聞と窓外に広がる馬場の状況を眺めながら時を過ごしていた。9Rの1000万条件の特別戦精進湖特別は、天皇賞と同じ2000mの距離で行われる。このレースをきちんと見守ったなら、今日の天皇賞のある種の傾向も判るというものだ。 結果は、何と2000m2分10秒1の決着で、上り3Fは38秒を要していた。良馬場の強い馬のスピード決着なら、2200mの時計である。すでに10秒以上時計のかかる水飛沫の跳ね上がる不良馬場となっている。天皇賞までに後1時間15分もあり、雨はさらに降り注ぐだろう。 GCの最終追い切りをいつものように録画して見直したりしていた。ひと目で気配の良さを感じたのはサトノクラウンだった。M・デムーロが前走毎日王冠で勝ったリアルスティールを降りてまで手綱を取る