朝蕎麦を用意して食べ終え、温まった体と心で菊花賞のスタートの時間を待った。待ち遠しかった。
というのは、トライアル神戸新聞杯(阪神芝2400m)を見終えてから、菊花賞の勝負馬を決めていたからである。勝ったサトノダイヤモンドではなく、5着に敗れたエアスピネルだった。
あの日、武豊は好位からの先行する競馬ではなく、後方13番手からの競馬をした。まるでエアスピネルの脚を試すようにだ。明らかにトライアル戦でしかできない試行に挑んで、エアスピネルの新しい可能性を見出そうとしていたのだった。
結果は、4コーナーで大外を廻って5着。これなら本番菊花賞では必ず好位から差す競馬に戻して、勝負を賭けてくるなと、私は踏んだのだ。騎手が何かを意図して新しい境地を開こうとした馬は、長く競馬を見守った経験上から言えることだが、もう一つ変わってくる場合が多い。本番で成功すれば、ロングショットにもなる。挑んで敗退することで、人気が下がるからである。あの瞬間から、私のターゲットは、菊花賞となったのだ。シンハライトが故障で出られなくなったこともあり、秋華賞もそれほど熱くならずに、じっと菊花賞を待っていた。
神戸新聞杯と中山のセントライト記念を比べても、どう見ても神戸新聞杯の方がレヴェルが高かったと思えてもいた。だからサトノダイヤモンドとディーマジェスティの一騎打ちとなるとも思えなかった。一騎打ち人気が高まるなら、それは幸いとさえ笑みを浮かべていた。勝負は別の馬なんだよなと。
パドックを見て、少し詰まった馬体に感じたディーマジェスティは、3000mよりも2400mの馬に見えたことも安心材料だった。サトノダイヤモンドの方が明らかに伸びやかな馬体だった。エアスピネルもパドック気配は万全に見えた。
だから勝負は、馬連でエアスピネルからサトノダイヤモンドが大本線。あとは趣味でこれまで応援してきたプロディガルサン、レッドエルディスト、念のためディーマジェスティへほんの少々。それで2016菊花賞はOKと、安心したのである。
3分3秒3。中断外から4コーナーを廻って、そのままC.ルメール・サトノダイヤモンドが危なげなく抜け出して勝ち上がったとき、武豊エアスピネルはインの2番手で粘ろうとした。外から福永祐一レインボーライン、わずかに遅れて蛯名正義ディーマジェスティが伸びて追いすがろうとしてきた。
粘れ!スピネル!!思わずGCのTV画面に向かって叫んでしまった。
2番手の馬たちがゴールになだれ込んだとき、画面では武豊エアスピネルが何とか粘り切ったように思えたのだが・・・。
それはつかの間の依怙贔屓でしかなかった・・・。スロー再生が流れると、レインボーラインがほんの少しだけ届いているように見えた。ああ・・・。私は一瞬声を失ったようだ・・・。
でも気を取り直して、それでも強気に呟いた。「勝負の見極めはあやまってはいなかった」と。そう言いながらも、落胆はつきまとっていたのだったが・・・。
こうして私の菊花賞は終わったのである。この悔しさと落胆が、いつの間にか2016菊花賞の宝物となる想い出となっていくのだ。
C. ルメールの騎乗は完璧だった。不利や不安などどこにもなく、自在にインから外へと馬を操り、4コーナーからは圧巻の追い出しを決めたのである。
引き換えエアスピネルは、道中絶えず他馬に気を使ってか、首を振ったりよれるようにしてみたり、少しばかり気負った素振りをみせていた。武豊の手綱を握るこぶしの位置も高く、なだめようと苦心していたことが解る。
最初の1,000m(5F )が59秒9。次の5Fが64秒5とペースがいっきに落ちたこともあって、好位から中団の馬たちが入れ替わり立ち替わりに馬群の中で行ったり来たりして、隊列が安定しなかったことも大きく影響したはずだ。いつもなら長距離レースの隊列は、一度決まるとそれほどの乱れはないものなのにである。私の推理が崩れたのも、こんな予想外の馬群のゴチャツキにあったとしか言えない。たぶん騎手武豊の心境も同じだったろう。なんで隊列が安定しないんだと。まあ、それも競馬の勝負なのだ。
それよりも何よりも、ゴール前のシーンで私が愕然としたことがあるのだ。いや馬券を離れてのことなのだが。
それは、日本競馬の生んだスター騎手武豊の肉体の衰えを、ついに実感してしまったことだった。
私にとって武豊は、少なくとも大舞台でハナ差で負けることはない騎手であり続けていた。ハナ差でも勝ち切る騎手だった。
それは、武豊が自らの騎手魂から発する<気>を手綱を通して確かに馬に伝え、故にそれを受けて馬もさらにもう一つ狂惜しく踏ん張り抜くことで、あたかも奇跡の実現のように達成してきた。しかしみなぎる<気>を馬に伝えるのは、凄まじく体力のいる作業となるだろうことは予想できる。全ての精力を尽き果てんばかりに注ぎ込む消耗戦の作業なのであるからだ。
でもそんな凄味が、この日はもう失われていた。逆にルメールの方がそんな<気>に満ち満ちていた。あるいは世界を見渡せばムーアやモレイラも、それを実現することで今頂点にあるのだといえる。
気がつけば武豊ももう47歳。アスリートとして<気>を発揮するには、体力的に厳しくなっているのだろう。年齢的には、技でかわす技巧派タイプに変ずる瞬間を迎えているのかも知れない。
そんな現実を知らされた気がする。古来より「不老不死」は幻想でしかないのだから。
2着をハナ差で確保した福永祐一レインボーライン。やることなすことがすべて裏目に出てしまったスプリンターズSの敗退(ビッグアーサー)で、悪いリズムが底を打ち、今ベクトルが上向いているということではないか。秋華賞制覇(ヴィブロス)にもそのことは見て取れる。
4着蛯名正義ディーマジェスティ。2400m辺りのレースで、再度この馬の真価を見てみたいものだ。この日は外々を廻らせられてか、あるいは3000mのレースの適性なのか、らしさがかすんでいたようだった。
そんなこんなで、私の勝負レースだったはずの2016菊花賞が終わった。あぁ・・・ッ。
この弔い合戦は、今週末の天皇賞だ。世界レヴェルの古馬の精鋭が集う予定である。
あぁ・・・ッ。
というのは、トライアル神戸新聞杯(阪神芝2400m)を見終えてから、菊花賞の勝負馬を決めていたからである。勝ったサトノダイヤモンドではなく、5着に敗れたエアスピネルだった。
あの日、武豊は好位からの先行する競馬ではなく、後方13番手からの競馬をした。まるでエアスピネルの脚を試すようにだ。明らかにトライアル戦でしかできない試行に挑んで、エアスピネルの新しい可能性を見出そうとしていたのだった。
結果は、4コーナーで大外を廻って5着。これなら本番菊花賞では必ず好位から差す競馬に戻して、勝負を賭けてくるなと、私は踏んだのだ。騎手が何かを意図して新しい境地を開こうとした馬は、長く競馬を見守った経験上から言えることだが、もう一つ変わってくる場合が多い。本番で成功すれば、ロングショットにもなる。挑んで敗退することで、人気が下がるからである。あの瞬間から、私のターゲットは、菊花賞となったのだ。シンハライトが故障で出られなくなったこともあり、秋華賞もそれほど熱くならずに、じっと菊花賞を待っていた。
神戸新聞杯と中山のセントライト記念を比べても、どう見ても神戸新聞杯の方がレヴェルが高かったと思えてもいた。だからサトノダイヤモンドとディーマジェスティの一騎打ちとなるとも思えなかった。一騎打ち人気が高まるなら、それは幸いとさえ笑みを浮かべていた。勝負は別の馬なんだよなと。
パドックを見て、少し詰まった馬体に感じたディーマジェスティは、3000mよりも2400mの馬に見えたことも安心材料だった。サトノダイヤモンドの方が明らかに伸びやかな馬体だった。エアスピネルもパドック気配は万全に見えた。
だから勝負は、馬連でエアスピネルからサトノダイヤモンドが大本線。あとは趣味でこれまで応援してきたプロディガルサン、レッドエルディスト、念のためディーマジェスティへほんの少々。それで2016菊花賞はOKと、安心したのである。
3分3秒3。中断外から4コーナーを廻って、そのままC.ルメール・サトノダイヤモンドが危なげなく抜け出して勝ち上がったとき、武豊エアスピネルはインの2番手で粘ろうとした。外から福永祐一レインボーライン、わずかに遅れて蛯名正義ディーマジェスティが伸びて追いすがろうとしてきた。
粘れ!スピネル!!思わずGCのTV画面に向かって叫んでしまった。
2番手の馬たちがゴールになだれ込んだとき、画面では武豊エアスピネルが何とか粘り切ったように思えたのだが・・・。
それはつかの間の依怙贔屓でしかなかった・・・。スロー再生が流れると、レインボーラインがほんの少しだけ届いているように見えた。ああ・・・。私は一瞬声を失ったようだ・・・。
でも気を取り直して、それでも強気に呟いた。「勝負の見極めはあやまってはいなかった」と。そう言いながらも、落胆はつきまとっていたのだったが・・・。
こうして私の菊花賞は終わったのである。この悔しさと落胆が、いつの間にか2016菊花賞の宝物となる想い出となっていくのだ。
C. ルメールの騎乗は完璧だった。不利や不安などどこにもなく、自在にインから外へと馬を操り、4コーナーからは圧巻の追い出しを決めたのである。
引き換えエアスピネルは、道中絶えず他馬に気を使ってか、首を振ったりよれるようにしてみたり、少しばかり気負った素振りをみせていた。武豊の手綱を握るこぶしの位置も高く、なだめようと苦心していたことが解る。
最初の1,000m(5F )が59秒9。次の5Fが64秒5とペースがいっきに落ちたこともあって、好位から中団の馬たちが入れ替わり立ち替わりに馬群の中で行ったり来たりして、隊列が安定しなかったことも大きく影響したはずだ。いつもなら長距離レースの隊列は、一度決まるとそれほどの乱れはないものなのにである。私の推理が崩れたのも、こんな予想外の馬群のゴチャツキにあったとしか言えない。たぶん騎手武豊の心境も同じだったろう。なんで隊列が安定しないんだと。まあ、それも競馬の勝負なのだ。
それよりも何よりも、ゴール前のシーンで私が愕然としたことがあるのだ。いや馬券を離れてのことなのだが。
それは、日本競馬の生んだスター騎手武豊の肉体の衰えを、ついに実感してしまったことだった。
私にとって武豊は、少なくとも大舞台でハナ差で負けることはない騎手であり続けていた。ハナ差でも勝ち切る騎手だった。
それは、武豊が自らの騎手魂から発する<気>を手綱を通して確かに馬に伝え、故にそれを受けて馬もさらにもう一つ狂惜しく踏ん張り抜くことで、あたかも奇跡の実現のように達成してきた。しかしみなぎる<気>を馬に伝えるのは、凄まじく体力のいる作業となるだろうことは予想できる。全ての精力を尽き果てんばかりに注ぎ込む消耗戦の作業なのであるからだ。
でもそんな凄味が、この日はもう失われていた。逆にルメールの方がそんな<気>に満ち満ちていた。あるいは世界を見渡せばムーアやモレイラも、それを実現することで今頂点にあるのだといえる。
気がつけば武豊ももう47歳。アスリートとして<気>を発揮するには、体力的に厳しくなっているのだろう。年齢的には、技でかわす技巧派タイプに変ずる瞬間を迎えているのかも知れない。
そんな現実を知らされた気がする。古来より「不老不死」は幻想でしかないのだから。
2着をハナ差で確保した福永祐一レインボーライン。やることなすことがすべて裏目に出てしまったスプリンターズSの敗退(ビッグアーサー)で、悪いリズムが底を打ち、今ベクトルが上向いているということではないか。秋華賞制覇(ヴィブロス)にもそのことは見て取れる。
4着蛯名正義ディーマジェスティ。2400m辺りのレースで、再度この馬の真価を見てみたいものだ。この日は外々を廻らせられてか、あるいは3000mのレースの適性なのか、らしさがかすんでいたようだった。
そんなこんなで、私の勝負レースだったはずの2016菊花賞が終わった。あぁ・・・ッ。
この弔い合戦は、今週末の天皇賞だ。世界レヴェルの古馬の精鋭が集う予定である。
あぁ・・・ッ。
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