ゴール前の坂。
ホームストレッチを先に抜け出した川田リリーノーブルをめがけて、外から石橋脩がまるで狂ったように一心不乱にラッキーライラックを追った。
追って追って追いまくった。その手綱の叫びに答えるようにラッキーライラックはグィッと伸び切った。そこがゴールだった。
種牡馬オルフェーブルの初年度産駒が2歳最初のG1を制覇した記念すべき瞬間である。
いつものように木曜夜にGCの「今週の調教」で最終追い切りを録画して、私自身はスタンバイしていたが、土曜までそれを見なかった。本音を言うと、2歳牝馬のチャンピオン決定戦だったが、どうもまだ勢力図そのものがはっきりとせずに、確かな推理の自信が少しも持てなかったからである。一番先にデビューした馬であったとしてもまだ5か月ほどなのだから当然と言えば当然なのだが。
気分を切り替えて、じっくりと最終追い切りを見たのは土曜の午後。真剣に見終えて、私の結論には迷いがなかった。
もっともよく見えたのがラッキーライラック。その気配からは自然とオーラのようなものが漂っているように感じられた。軸はこの馬だと、即座に決めた。唯一の不安は騎手石橋脩がここ5年ほど(正確には2012春天皇賞ビートブラックとの初G1制覇以来)G1勝利を果たしていないということだったが、最近の騎乗には安定感を増している成長感のある騎手だから問題ないと踏んだ。ここらで日本人騎手の存在感を示して欲しいとも願ったのだ。(今、騎手界は相撲におけるモンゴル勢のように、西欧の騎手たちに席巻されている)
ルメール騎乗のロックディスタンスもそれなりの気配だけは示していたが、牡馬を駆逐した札幌2歳S以来のぶっつけ本番というのがどうしても気懸りで(トライアル戦を使わなかったのではなく、使えなかったのではないかと読んだからだ)、このレースで軸にするのは嫌だった。大外18番枠も不利だろうし、オルフェーブル産駒の上位独占というのも出来過ぎた話だと思えたのだ。だから相手馬の1頭に加えるだけの評価にした。
趣味で選ぶのなら、何と言ってもブエナビスタの仔福永ソシアルクラブ。もし福永祐一が直線で弾けさせる騎乗ができたならと、半分は願望を込めて期待した。
他に気配を良く感じたのは、川田リリーノーブルに、戸崎マウレア。結構人気サイドの選択だったから、とっておきの穴馬に小牧グリエルマに注目した。何となくこの馬なりに好状態に思えたからだ。
「乗り手がビシビシと促さなくても、馬が自然と走りたい状態になっていること」 それが走る様子からうかがえる馬を、私は私自身の主観で選んでいるのだが、ここ最近はいつもは邪な心を抑えて冷静に判断しているのか、どうも選んだ馬たちが頑張ってくれているようだ。
私は所謂「予想家」ではないから(決められた時間に結論を出すのは無理で、ときにはレース直前の返し馬まで推理を粘ることさえある)、ブログの事後報告で何があったか私自身の時間経過をレポートしているだけだが、だからこそ長続きしているのかも知れない。
もしそんな仕事依頼があったなら?って?それはそのとき考えますです、ハイ。(ついでですから、かつて伊藤雄二元調教師に聞いた走るダート馬についてひとつ参考になるヒントをお教えしておきましょうか。今日は芝のレースですが、いずれのために。追い切りや返し馬で確認してください。前脚のスナップの効いた走りをする馬が走るダート馬ですよ。エッ⁉そんなことは判らない?ならば判るまで馬を見続けて下さいませ)
ともあれラッキーライラックから選んだ馬は5頭。これでは私には多すぎるのだが、ロックディスタンスもマウレアもグリエルマも、ほんのわずかな抑えにして、リリーノーブルとソシアルクラブを相手本線なら、まだ小学生の低学年の女の子の徒競走の様な2歳戦
でもあるし、まあいいかと思って実行した。馬連の他に、枠連4-6の1点だけは、万が一ソシアルクラブが超大物ならと好奇心半分で余った軍資金から追加した。
スタートして、隊列が決まったときには、石橋ラッキーライラックは好位の後ろの外(中団の前とも言えます)で、いつでも馬群を抜けられる態勢を築いていた。ここで勝負あったなと判断したほどである。
ロックディスタンスは道中3番手辺りを確保して挑んでいたが、伸び切れなかった。久々だった所為なのか特性が平均ペースの長距離にあるということなのか、はっきりとした原因は判らないが、馬群に沈んだのは紛れもない事実である。
直線でスッと馬群を早めに抜け出して最後まで踏ん張ったリリーノーブルも、良い脚力を持った好素質の馬だった。
マウレアは最終最後に外から伸びて3着を確保した。
結果からすれば、ロックディスタンスを除いた馬たちの人気通りの決着ということになる。
しかしホームストレッチの石橋・川田の攻防は見応えがあった。特にラッキーライラックの脚力を測ったように追って伸ばし切った石橋脩の騎乗は、本人がその価値の本当の意味を理解していたなら、さらに大きく浮上する契機となるだろう。
おそらく石橋脩は、体当たりで勝った12年春の天皇賞以上の騎手としての成果を、このレースでつかみ切ったと言える。今後の活躍を見守りたい騎手である。
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