何となく先週末は慌ただしかった。
土曜の午後に、11Rのメインレース扱いとなった中山GJをTV観戦。もはや障害馬として大成した印象のある石神深一オジュウチヨウサンに何の不安も感じられず、勝つのはこの馬だと決めて応援した。オジュウチョウサンの特徴は、ただただジャンプが好きで、ジャンプすると普通の馬は消耗するのが常なのだが、この馬だけはジャンプをすると逆に元気バリバリになるのだという。
平地レースでの実績はなかった馬だが、障害馬として新境地を開いた。特筆すべきセールスポイントがひとつあれば、幸運に出会えるというドリームを掴んだ馬だったのだ。
昨年の中山GJから6連勝、その勝利には暮れの中山大障害と今年の中山GJが含まれているのだから素晴らしい。
この日、一昨年の中山大障害馬で昨年の大障害でも2着を確保した林満明アップトゥデイトとの馬連が、2倍を切るオッズだった。何となくだが、どうもこの組み合わせでは今日の中山GJは決まらないと思えてならなかった。いや、それほどの根拠はなく、競馬は勝負事だと考えると、2着には別に勝負に絡もうとする馬がいるのではないかとそう閃いたのだ。
で、私は、内から平沢健治タイセイドリーム、難波剛健サンレイデューク、高田潤ルペールノエル、念のために林満明アップトゥデイトの馬連4点でレースを見守ることにした。
アップダウンの激しい4250m(そこに大竹柵と大土塁がある)。しかしオジュウチョウサンの飛越は実に安定していた。石神深一の騎乗も、自信が漲って馬と一体化していて、実に堂々としていた。結果は楽勝の勝利。
3コーナー過ぎから勝負を賭けて来たのは、難波剛健サンレイデュークで、林満明アップトゥデイトが離された3着。4着は平沢健治タイセイドリーム、5着は高田潤ルペールノエル。
私は、1着馬から2、3、4、5着の馬の馬連を買っていたことになった。私にしては珍記録だった。
夕方からは、私用をあれこれ片づけて、ついでに皐月賞の最終追い切りを確認して過ごし、翌朝は5時過ぎに目覚めて、新聞に眼を通しもした。
朝8時半のレッドアローに乗った。今日は、気分を変えて所沢までにした。各駅に乗り換えて隣の新秋津で下車。武蔵野線の秋津まで歩いて、生まれて初めて秋津から船橋法典に向かった。東京競馬場のある府中本町までなら何度も乗っているのだが、秋津から船橋法典に向かうことはこれまで一度もなかったのである。路線図を見ると、まるで外環道に沿ってグルッと近郊を田舎巡りをするかのようで、何となく躊躇っていたのだ。半円形を思い浮かべると、A地点から反対のB地点まで、円周に沿って行くよりも直径を進む方が距離が短く感じるのは人情だ。
でも考えようによっては、座って65分なら、いろんな乗り換えを考えると楽かもしれない。それでも初めての道中は何かと気を使うので、ゆっくりと眠っている訳にはいかないのは、私自身の性格だろう。
結局、いつもの都心を抜けるコースと比べると15分ほど早く中山競馬場に着いた。
そのまま真っ直ぐに「優駿」の部屋にたどり着く。すでに矢野誠一御大が到着していたので、今朝の武蔵野線の道中を話すと、
「いえね、その昔府中で(桂)文生としこたま酔っ払って、そのまま何故か府中本町に行ったら、東京行きの電車があって、コリャァしめたともんだと乗ったはいいけど、東京までが実に長い道中で、文生はすぐに寝ちまったから覚えてないだろうけど、こっちは大変な思いをしたんだよ」
と、苦笑しながら言われた。よくよく考えると、東京競馬場にいたのに、深夜の武蔵野線でグルッとひと回りして、何と中山競馬場経由で東京駅に向かったのだから、正気の沙汰ではなかったろう。酔っぱらっていたのが良かったというもんだ。
8R。1000万条件の鹿野山特別芝2000m。前半5F60秒3のペースで勝ったのはルメール騎乗のテオドール。2着の田辺裕信カラビナとの馬連は持っていた。勝ちタイムは1分58秒7。古馬の1000万条件でこの時計なら、本番皐月賞は、1分58秒か、58秒を切るぐらいの決着となるだろうと予想した。あとは皐月賞まで、ジッとおとなしくしていようと決めた。
この皐月賞で応援する馬を、私はすでに決めていた。最初に考えたのは、皐月賞に至るトライアル戦の中で最も印象に残るレースだったのはどれだろうか?ということだった。
2つのレースが浮かんでいた。東京の共同通信杯と阪神の毎日杯。四位洋文スワーヴリチャードと松山弘平アルアインである。ここからどの馬に行くかが勝負の分かれ目だろう。加えたのは、ホープフルSの勝ち馬でルメールの乗るレイデオロと田辺裕信のアウトライアーズだった。
ここまで3連勝の牝馬ファンディーナは闘った馬のレヴェルを考えると今日は無視できたし、アルアインを選ぶなら同じ池江厩舎のペルシアンナイトはいかにデムーロ騎乗だったとしても盲点になってしまったし、スワーヴリチャードに共同通信杯で負けた武豊ダンビュライトにも、ずっと乗っていたルメールが騎乗しないという理由で眼が行かなかった。
皐月賞の直前に画面に流れた単勝オッズを見て、
「ファンディーナが2.6倍で、アルアインなら22倍だよ。どちらを買うかは自ずと決まるんじゃないでしょうかねぇ」
などと口にしたが、私自身は単勝は買わなかった。最終的に四位洋文に期待して、アルアイン、レイデオロ、アウトライアーズの馬連3点。武蔵野線初体験の気疲れからか、私の中の閃きの扉の鍵は今日は開けられなかったのである。
1着松山弘平アルアインの勝利のポイントは、堂々と好位から正攻法の競馬に挑んだことである。そうできた裏付けは、毎日杯の好タイムでの勝利があったればこそだったろう。
2着デムーロ・ペルシアンナイトは、何といってもインをするすると上がっていった3コーナー手前からの、デムーロによる忍者騎乗の成果だったと思う。
それにしても池江厩舎のワントゥフィニッシュの結果とは・・・。何となく狐につままれた気分だった。
1か月後の日本ダービー。私は今日選んだ馬たちに今日出走を回避した2億円馬サトノアーサーを加えて、推理に挑もうと思っている。
いつものメンバーで法華経寺に向かう帰り道。並んで歩く文春の編集者F氏に、
「あの原稿は面白かったですよ。カンカン・・という音色が今も頭に残ってるんですよ」
と言われた。暮れに、書き上げたばかりの原稿を読んで下さいと渡していたのである。
そのひと言だけで、今日中山に来て良かったと思えた。昨日の中山GJと今日の8Rの多少のプラスを、おまけをつけて吐き出した(いやJRAに預金してしまった)が、私にとっては、もう少し生き抜く希望となる一言だったのである。
それからの2時間。いつもの茶店で春の宴に酔い、下総中山から隣の西船橋に戻って、また武蔵野線を旅して帰った。
何と所沢からは、いつもより1時間早いレッドアローに乗れてしまった。
次は、春天皇賞だ。雪辱のチャンスにしようと決意を新たにしている。
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