春の雪に見舞われた3月27日、午後にGCを観ると中京は小雨まじりの光景だった。
湿った馬場は稍重。見るからに力で押し切る馬に有利な印象だ。
ここで私は、高速馬場で瞬発力を示して成績を積み上げてきたソルヴェイグやメラグラーナには不利だと感じた。切れる牝馬だから、たとえ人気があったとしても、余計にそうだと判断した。
出馬表を眺めて、上り馬なら休養明け初戦以外2着以下になったことがないセイウンコウセイかなと思ったが、昨年11月27日から連勝して、初重賞挑戦となったシルクロードSでも2着を確保させていた主戦騎手の38歳松田大作が、シルクロードSの直後の2月2日に免停中のスピード違反(無免許運転となる)で京都府警に検挙される不祥事で、その結果JRA裁定委員会の結論が出るまで騎乗停止処分を受けていたことを考えると、ツキがないのではないのかなと勝手に深読みしてしまったのだ。
ここ2年ほど、その騎乗にようやく芯が入ってきたのかなと感じられた松田大作だったが、4年前に2歳の実娘を交通事故で失くしているのに、こんな道路交通法違反を犯してしまった。残念な気の弛みとしか言えない。
しかし結果からすると、その代打騎乗の一発勝負を担った幸英明は、さすが牝馬クラシック3冠騎手と称えられるべきスキのない騎乗を示したのである。湿った力のいる馬場が得意であったことも幸いしたが、そんな馬場で上り33秒8の脚力で好位から差し切った騎乗は、観る者を唸らせる「芸」とさえ言いきれた。
直線で好位から外に抜け出し、ゴール前の坂から次第にインに切れ込んで馬の脚力を、さらにもうひとつ伸ばす勝負の芸当。それは、谷一門の騎手だった田島良保から田原成貴そして谷八郎最後の弟子である幸英明へと伝わる必殺技だと言えるのかも知れない。その昔、セイウンコウセイのオーナー西山茂行の父の所有馬だったニシノライデン(ミホシンザンが勝った’86年春天皇賞でハナ差に迫ったが斜行により失格)の取材の折に田原成貴は言った。「馬はね、斜めに走らせた方がより伸びるんですよ、鶴木さん」
でもそれら一切は、結果が出て判ることだ。気にはなったが流れが悪いと判断して見切ってしまった私は、力のいる湿った馬場をTV画面から眺めながら、力は格だ。格なら、今回は、岩田康誠レッツゴードンキとM.デムーロのレッドファルクスしか考えられないと、机から見える春の雪化粧の白さに酔ったかのように思い込んでしまった。
でも的中はしなかったが、岩田康誠の後方からの直線イン攻撃(2着)は、いかにも勝負師復活と思わせる岩田康誠本来の好騎乗であったし、セイウンコウセイの直後からセオリー通りに抜け出そうとしたデムーロの騎乗(3着)も正攻法の手腕に満ち満ちていた。レッドファルクスは暮れの香港以来の3か月半ぶりの実戦で最高潮の状態には戻り切ってはいなかったのだろう。2年前の桜花賞で、戸崎圭太ルージュバックのミス騎乗があったにせよ桜花賞馬となったレッツゴードンキも、今は何事にも動じないような風格すら示す馬に成長して、この高松宮記念でも迫力をもって伸びて来た。
湿った中京の馬場を勝負の神様が用意して、その舞台をスキもなく活かしきったのが、セイウンコウセイだったというのが正解なのだ。そう思う。
前夜のドバイTV観戦があったこともあって、昨日は早くに横になったが、朝方寒さを感じて眼が覚めると、山はもう一度昨日の高松宮記念を思い出させるように春の雪に見舞われていた。5㎝ほどの白い雪化粧。
雪に向かって私はそっと呟いた。
「ベラボウめっ。今度の日曜は初めてG1となった大阪杯だ ‼チャンスはまだある・・・」と。
どうも競馬には、いくつかの扉があるようだ。心を集中させて、冷静に出馬表を見渡せるようになる扉。それを開けると、もう一つ深いところに、閃きを呼び起こす扉があり、その扉を開け損なうと、私の場合は、その日はどうやっても1-3着か、2-3着推理に止まってしまうような気がする。
どうすればいいのか?たぶん解ってしまえば意外に簡単な答えなんだろうが、怖いもの知らずの若い情熱でその扉の鍵をこじ開けていた体力が失われつつある最近は、どうも自分自身が持つ鍵を、その閃きの扉の鍵穴にうまく差し込めていないような気がする。
無駄な説明や弁解が不必要な大胆さに憧れる春の雪化粧か・・・。いっそ、まっさらに溶け込んでしまいたいような、そうすれば何かをまた取り戻せるような気がするのだが、どうだろう?・・・。
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