やる気の起きなかったモヤモヤ感の原因が判ったので、元気回復したついでに4年ほど前に試作して引き出しの中にしまってあった駒を久し振りに取り出してみた。 いやはや、下手くそな私の手になる試作の駒だったはずなのに、いつのまにかそれらしく変化していた。(まあ、書体などは詳しく追及しないでくださいませ‥苦笑) この、それらしくというのが不思議だった。ひょっとして漆というのは、時間の経過とともに成長するのではないかと思ったのだ。しっとりとして味わいも増しているようだった。 とすれば、おそらく盛上げ駒の魅力というのは、出来上がったばかりのものより、ある程度時間が経過して、木地にも風合いが生まれた頃になってようやくその本性を発揮するものであるのかも知れない。 その意味では、彫り駒や彫り埋め駒よりも盛上げ駒は完成期が遅いともいえる。どうやら注文した駒師から届いたその瞬間に、数年後の味わいを想定して駒を眺める大局観こそが、盛上げ駒を評価する本当の審美眼なのだろう。 時間がそれなりに経過した過去の巨匠たちの優れた作品に、思わずドキッと心を高まらせてしまうのは、おそらくそういうことなのだ。 駒字の形、書体のバランス感、盛上げの漆使いの技量が込められてある大御所たちの作品は、時が刻まれた漆の成長と共に、さらに凄味を増す。そう信じる根拠を、どうやら私は下手くそな試作駒から見つけたようである。